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浦和地方裁判所 昭和58年(ワ)389号 判決

原告

稲葉タミ

右訴訟代理人

石川博臣

村田彰久

被告

中倉チエ子こと

中倉智恵子

右訴訟代理人

常木茂

主文

被告は原告に対し、金二九九万九八七二円及び内金二九七万九四七五円に対する昭和五八年一月一日から完済まで年一割五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は仮に執行することができる。

事実

一  請求の趣旨

主文同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

仮執行免脱宣言

三  請求の原因

1  原告は、昭和五六年九月七日、被告の夫であつた訴外亡中倉英益(以下単に「英益」という)に対し、金五〇〇万円を、弁済期日を昭和五八年八月一〇日、利息を年一割五分、遅延損害金を年三割とし、英益は原告に対し、昭和五六年一〇月から毎月一〇日限り利息を支払い、その利息の支払を一回でも遅延したときは、直ちに期限の利益を失ない、元利金全額を一時に支払う旨の約定のもとに、貸与した。

2  被告は、昭和五六年九月七日、原告に対し、英益の原告に対する1項の借受金債務の支払について、連帯保証する旨約定した。

3  仮に2項の主張が認められないとしても、被告は、昭和五六年九月七日、英益に対し、1項の債務の支払につき、被告を代理して原告との間に連帯保証契約を締結する権限を授与し、英益は、被告の代理人として、右同日、原告との間で連帯保証契約を締結した。

4  仮に3項の主張が認められず、英益に代理権がなかつたとしても、被告は、左記のとおりの行為をなしたものであり、この事実に照らして、昭和五七年五月一七日、原告に対し、右3項の連帯保証契約を追認したというべきである。

すなわち、英益及び被告は、昭和五七年五月はじめころ、原告方を訪れ、本件借受金の五〇〇万円を第三者に貸与したが、その第三者が失踪してしまつたため原告に返済することが困難になつた旨告げたところ、原告は、金員の回収を危ぶみ、その後電話で英益に事態解決のために原告方に来るように要求したが、英益は原告方に赴かず、被告が代わりに赴いた。そこで、原告が被告に対し、原告が経営する呉服店から留袖一式を金七八万円で英益が買受けたことにして、訴外国内信販株式会社と立替金契約を締結し、その立替金をもつて、本件借受金の支払の一部に充てるように提案したところ、被告はこれを承諾し、昭和五七年五月一七日、再度原告方を訪れ、「ショッピングクレジット契約書」に自ら英益の署名をなし、同人の実印を押捺したものである。

1  英益は、原告に対し、昭和五六年九月七日、金二〇万円(天引)、同年一〇月から同年一二月まで毎月七日、昭和五七年一月一五日、同年二月から四月まで毎月各七日にそれぞれ各金二〇万円、同年五月七日、金七八万円、同年六月三〇日、金一二万円、同年一〇月一日、同年一一月一日、同年一二月三日、同年一二月三一日にそれぞれ各金五万円を支払つた。

6 右5項の各支払金について、まず約定による年一割五分の割合による利息金に充当し、残金を元金に充当して計算すると、昭和五七年一二月三一日現在、本件貸金の残元金二九七万九四七五円と利息金二万〇三九七円の債務が未払となる。

7 よつて、被告に対し、連帯保証債務の履行として、貸金残元利金二九九万九八七二円と内金(残元金)二九七万九四七五円に対する昭和五八年一月一日から完済まで約定による年一割五分の割合による利息金の支払を求める。

四  請求の原因に対する答弁

請求の原因1項は知らない。2、3項は否認する。4項は争う。なお、被告及び英益が原告の主張するような行為をしたことは認めるが、被告は連帯保証人の責任を負う意思はなく、また、その旨原告に述べてある。5項は知らない。6、7項は争う。

五  証拠〈省略〉

理由

一〈証拠〉によれば、請求の原因1項の事実が認められる。

二請求の原因2項については、これを認めるに足りる証拠はない。

なお、甲第一証の記載によれば、その連帯保証人欄には被告名義と見られる署名と捺印があるが、その署名は「中倉チエ子」となつており、被告の氏名が正しく記載されておらず、その捺印も英益の実印であり、かつ、被告本人尋問の結果によれば、その筆蹟も英益のものであることが認められ、被告が自ら署名捺印したものでないことは明らかであり、他に原告の右主張を認めるに足りる証拠はない。

三請求の原因3項について、右甲第一号証の連帯保証人欄の記載及び原告本人尋問の結果によれば、英益が、昭和五六年九月七日に、原告に対し、被告の代理人として、一項の借受金の支払につき被告が連帯保証する旨の約定を締結したことは認められるが、被告が英益に対し右代理権を授与したと認めるに足りる証拠はない。

四請求の原因4項について、原告が主張するような行為を被告及び英益がなしたことは当事者間に争いなく、また、被告本人尋問の結果によれば、被告は原告に対し、自ら責任をもつて払うとは明言をしなかつたものの(なおこの点に関してこれに反する原告本人尋問の結果は採用しない)、被告としては、甲第一号証で被告が連帯保証人とされていることを知つており、自らも少しでも返済をしてゆきたいとの気持があつたことが認められ、また、右ショッピングクレジット契約の締結については、その立替金の返済が金融機関の口座から定期的に支払われることになつていたが、その口座の名義人が英益であつたことから、英益名義で契約を締結したものであり、このような都合さえなければ、被告名義で契約を締結することをも承諾するつもりであつたのではないかと推察されるところであり、これらの被告の意思及び行為を総合すれば、被告は、昭和五七年五月一七日、原告に対し、連帯保証契約を追認したものと認めるのが相当である。

五原告本人尋問の結果によれば、英益は原告に対し、請求の原因5項記載の年月日に各記載の金員を支払つたことが認められる。

そこで、右支払金の充当方法であるが、一項記載のとおり、年一割五分の利息支払が約定されており、かつ、その支払につき充当の指定がなされたとの主張立証がない以上、法定充当の規定に従い、右割合の利息金にまず充当され、残金は元本に充当されるというべきである。そこで右の計算方法により充当すると、昭和五七年一二月三一日現在、少なくとも貸付残元金は金二九七万九四七五円、利息金は金二万〇三九七円の債務が残存していたと認めることができる(なお、原告の計算方式によると弁済のあつた日の利息を計算していないが、本来弁済のあつた日も利息は発生するのであり、かつ、金七八万円の支払については、証拠上は昭和五七年五月一七日以降であると思われるが、これを同月七日として計算しており、正確に計算すれば、右認定の金員より増額となるが、原告が右認定の金員しか求めていないので、右金員の限度で正当としてこれを認める。)。

六以上によれば、原告の本訴請求は理由があるので、これを認容し、民事訴訟法八九条、一九六条(なお、仮執行免脱宣言の申立については、これを宣言すべき特段の理由も見出せないので、却下する。)を各適用して、主文のとおり判決する。

(山崎潮)

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